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ブログ : 地下機械式駐車場の内部(怖いと思った事)
投稿者 : kishimoto 投稿日時: 2011-02-22 17:24:38 (9906 ヒット)

数年前、都内の新築マンションを管理していた時の話です。そのマンションには120台分の地下機械式駐車場がありました。かなりの台数でしたので、40台分づつ3つの地下室に分かれて、機械式駐車場が設置されていました。

 

その機械式駐車場が稼働開始してから3か月ほど経った頃、駐車場使用者の1人である若い男性からクレームがありました。 駐車場から自家用車を出したら、セメントが垂らされたように車体が汚れていた、というのです。

 

早速、その男性に連れられて、現場へ車を見に行きました。 確かにモルタルかセメントのようなものが点々と垂らされたように、車体にこびりついていました。

 

その駐車場使用者は、かなりご立腹です。 「この機械式駐車場はどうなってるんだ。天井から水が漏ってるんじゃないか? 車を一体どうしてくれるんだ! こんな汚れた車じゃ外へ行けない!」

 

私は、急いで、マンションの施工業者と機械式駐車場の設置業者に連絡を取りました。 施工業者は、マンション建築の元請けとして、ご立腹の被害者(車を汚された)に対し、翌日には原因を調査し、原因が施工の瑕疵や機械の不良によるものと判明した場合、直ちに被害に対する補償や賠償をすると約束しました。

 

翌日は朝から、元請け施工業者と機械駐の設置業者の技術者が各々3人づつ、調査のためにマンションに来ました。 「岸本さんも、調査に立ち会いますか?」 と誘われ、一瞬どうしようかと迷いましたが、地下式の機械式駐車場の内部を見る機会など滅多に無いことだと思い、「勉強のために調査に参加させて下さい」 と応じました。

 

私たちは、マンションのB1にある地下機械式駐車場の出入口の方へ行きました。 格納されている車の出し入れはコンピューターで制御されており、 車の持ち主は、この出入口の扉の横に設置されている制御盤に各自持っている鍵を差し込み、暗唱番号を入力すると扉が開き、自分の車が出せるようになっていました。

 

その、車の出し入れ場所の下に、40台分の大きな地下機械式駐車室がある訳です。  先ず、車の出し入れ場所の隣にある機械室の中に入り、その室の床のマンホールを開けると、その下に広い空間がありました。タラップで下まで降りて行けるようになっています。深さは6~7m位ありました。

 

そこは不思議な空間でした。 たたみ6畳分程度の広さはありますが、何も設置されていません。 ただ、壁には点検口が幾つもあり、要するに、此処から地下の各設備の内部を点検できるようになっていた訳です。 但し、「CO2消火につき、警報が鳴ったら直ちに脱出して下さい!」 という警告文が掲示されていたのが不気味ではありましたが。

 

早速、調査を開始することにしました。地下機械式駐車場の内部に入る点検口は縦横1m程度で、人がしゃがんで潜れる程度の広さです。施工業者と技術者のメンバーが次々と中に入っていきます。

 

私も入ろうとすると、一緒に来た管理事務所の所長が、「岸本さん、背広なんか着て中に入ったら、ドロドロに汚れますよ」と言い、作業服を貸してくれました。 私は着替えながら、〝この中って、そんなに汚れるような場所なのか?″ と少し不安になりました。

 

更に、所長は私に懐中電灯を貸してくれました。「中は真っ暗ですから」

「え! 中に電灯は無いの?」 今度は相当不安を感じました。 

「とにかく真っ暗ですから、懐中電灯で足元を照らしながら入って行って下さいよ」と、注意を受けました。

 

しゃがんで、懐中電灯を照らしながら、恐る恐る点検口を潜り抜け、地下機械式駐車場の内部へ入りました。 真っ暗です。 懐中電灯でぐるっと周囲を照らし、全体の光景を初めて見て驚愕しました。

 

空間の広さ、大きさは、私の想像を超えていました。 自動車40台分のパレットと支柱が、まるで巨大なジャングルジムのように見えました。 幅と奥行きは各々30m近くあったでしょう。 深さは多分10m位。 3層だったか4層だったかはよく覚えていません。 とにかく暗かったですから。

 

点検口からせり出している足場から、機械駐のパレットを支えている金属の支柱に手を伸ばして掴まり、支柱をよじ登ってパレットの上に立つことが出来ました。 パレットがズラッと並び、その上に何台も自動車が止まっています。

 

調査メンバーは、懐中電灯を照らしながら、漏水箇所を探しました。 私も一緒に、懐中電灯であちこちを照らしながら、パレットの上に並んでいる自動車の間を歩き回りました。 

 

天井も壁面もコンクリートでしたが、壁面はいたる所から水が漏れて流れていました。地下水です。壁面から染み出て来る地下水は床面の側溝に流れ、ポンプで汲み出されるので、車を汚したりすることはあり得ません。

 

車を汚す原因となる漏水箇所は天井にあると考えられました。 このコンクリート天井の上はちょうど自動車の通路になっていました。 地下機械式駐車場への自動車の出し入れ口もそこにあります。

 

調査メンバー全員で、天井に漏水の痕跡は無いか、あるいは、並んでいる自動車で汚損の被害を受けているものが無いか、懐中電灯を照らしながら探し続けていました。

 

すると突然、メンバーの1人が所持しているトランシーバーから音声が聞こえてきました。「これから1台車を出します。 機械駐の中にいる方は全員退避して下さい」

 

その時はよく知らなかったのですが、 機械駐の内部で調査点検する時は、車の出し入れ口に1人見張りの担当者を配置し、車の所有者が自分の車を出し入れしようとする前に、見張りの担当者がトランシーバーで内部のメンバーと連絡をとり、作業中の全員を安全な位置に避難させる。 という手順をとるのです。

 

機械駐の内部の人間が安全な位置に退避してから、機械を作動するのです。 そうしないと、中で調査点検している人間は機械に挟まって怪我しちゃいますから( いや死んじゃうかも・・・)。

 

「みんな! 車が1台出ます! すぐに退避して!」 と、トランシーバーを持っていた技術者が、他の調査中のメンバーに大声で知らせました。 すると暗闇の中を皆がガサガサと動き出し、各々勝手な方向へ逃げて行きます。

 

暗いので、皆がどちらの方向へ退避しているのか、私にはよく見えませんでした。 同じ方向ではなく、各人が別々の方向へ向かったので、私は誰について行けば良いのか一瞬迷いました。 迷ってるうちに1人とり残されました。

 

私は何処へ逃げれば良いのか分からず焦りました。 「皆さん何処ですか! どっちへ逃げればいいんですか?」 暗闇の中で叫びました。

 

「こっち! こっち!」と呼ぶ声が、2つの方向から聞こえました。 そのうちの一方を懐中電灯で照らしました。 そこは最初に入って来た点検口の、入口からせり出している足場の所でした。 そこに2人ほど退避していましたが、そこまで15m以上の距離があります。

 

声が聞こえた もう一方を懐中電灯で照らしました。 そこは、コンクリート壁面と機械駐の間にある幅2m程度の空間の床面でした。 そこには4人が退避していました。 距離は5m程度と近かったので、私はそちらへ逃げることに決めました。

 

しかし、暗い中を急いで歩いて行き、機械駐の最端部まで来て足がすくみました。 そこから床までの高さ(深さ)が7~8mあったのです。 簡単に飛び降りるという訳にはいきません。

 

パレットを支えている鉄パイプの支柱を伝って、取り敢えず下段のパレットに降りることにしました。 懐中電灯をポケットにしまい、支柱につかまって下段に降りようとした瞬間! 手が滑り、 「ウワーーッ ・・・!」

 

危うく 落下しそうになりましたが、辛うじてパレットの縁に両手が掛かり、ブラブラと宙ぶらりんの格好になりました。 「オッ!オッ!オッ!オー・・・!」 下からどよめきが聞こえました。

 

「バカ! 落ち着け! 横の鉄パイプにつかまって!」

 

私は、声が聞こえた方を振り返る余裕もなく、 〝 ウーッ! こんな真っ暗な穴の中でなんか死にたくない! ″  と思いながら、左手で鉄パイプの支柱を握りましたが、 「 痛ッ!」  落下した時の衝撃で手が痛い! 痛みを我慢して握った支柱に体を引き寄せ、両手両足でしっかりと支柱に抱きつきました。

 

そのまま支柱を伝って、ゆっくり滑るように降り、もう残り2m程度のところまでたどり着いて、〝 もう安心 ″ と思い、手足を支柱から離して床をめがけて飛び降りました。 が、 思いの外コンクリートの床は固く、 今度は両足首に衝撃が〝ギクッ″ ときました。

 

「痛ッ! ウウ・・・・・」 呻きながらしゃがみ込んじゃいました。 「大丈夫かよ? 岸本さん」 「だ、だいじょうぶですウウウ・・・・・・」 痛みをこらえました。

 

「全員退避しました。 車を出していいですよ。 どうぞ・・・」 と、技術者がトランシーバーで連絡をとると、間もなく地下機械式駐車場は動き出しました。

 

巨大なジャングルジムのような機械駐は、ゴーゴーと大音響をたてながら、全てのパレットが、上下・縦横に、まるでルービックキューブのように動かされてゆきます。 暗い中で間近に見ていると ゾッ とするような迫力です。 もしも機械駐の中に自分がとり残されたまま動き出したら・・・さぞ怖いでしょうね~。

 

その後、調査は続けられ、その結果、コンクリート天井に漏水箇所を発見することが出来ました。 ちょうどその箇所の上は自動車の通路の側溝に該当する部分でした。 雨水などがその側溝に流れ込むのです。

 

施工業者に確認したところ、その側溝部分には防水処置がなされておらず、そのために雨水がしみ込んで、地下機械式駐車場に漏水したものと断定されました。 最終的には、後日、側溝部分の防水工事を施工し、一件落着となりました。

 

今回の地下機械式駐車場の漏水調査を通じて、設備の点検や修繕に関する作業というものが、いかに危険と隣り合せであるかということを、身をもって体験することができました。

 

奇しくも同じ頃、社内では設備点検に関連して2件の死亡事故がありました。 1件は、九州の博物館で冷凍設備の点検中にアンモニアを全身に浴びてしまったという事故。 もう1件は、都内の公共施設で作業中に高所作業機が倒れ、その下敷きになってしまったという事故。

 

いずれの時も、会社の人事は風評のもみ消しに躍起となるのみで、根本的な事故の防止策を考えてくれません。 今の原発事故にしても、現場で作業している方々は、常に危険と隣り合せで大変な苦労をしていることと想像するに難くありません。 

 

  ( 完 )

 

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