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投稿者 : kishimoto 投稿日時: 2010-12-07 00:54:40 (1313 ヒット)

東京地方裁判所 平成3年3月8日判決

共有壁面復旧工事等請求事件

1 事件のあらまし

 東京都内にある、昭和40年代に分譲されたマンションで-そのマンションは、壁そのものが柱と同様上部の構造物を支えている壁柱様式の建物です(その後集合住宅での構造計算の方式が変更されたため、現在ではこの壁柱様式の建物は建築されていません)-ある区分所有者・甲が、その壁柱にA、Bという2つの貫通孔を設けて給水・給湯管やガス管などを通し、壁柱にガスバランス釜(幅35cm、長さ50cm、厚さ10cm、重さ14.5kg)を取り付けました。
 そこで、管理組合では、甲に対し、再三配管類を撤去し、貫通孔を原状回復するよう要求したのですが、甲がこれに応じなかったため、提訴するに至ったわけです。
 管理組合は甲に対し、裁判で次の請求をしました。

(a) A、B、Cの貫通孔に通してある配線・配管を取り外し、この三個の穴をセメントで塞ぐ工事をすること(裁判の途中で、Cの貫通孔もあり、この穴は、甲ではなく元の区分所有者が開けたものであることが分かりましたが、管理組合は甲に対し、この穴の配管等の取り外しと原状回復も求めました。)。
(b) ガスバランス釜を撤去し、その釜設置のため開けたねじ穴をセメントで塞ぐ工事をすること。
(c) この訴訟をするについて、管理組合が負担した弁護士費用を支払うこと。

 管理組合がこのような請求をした法律的な根拠は、次のとおりです。

(1)上記(a)、(b)の請求に対して

 貫通孔の設置及びバランス釜の取付けは、壁柱の強度を弱め建物全体の強度に悪影響を及ぼし、あるいは少なくとも壁柱の強度を弱めることになるおそれがある。したがって、甲の行為は、建物の保存に有害な行為である。仮に、直ちに建物の保存に有害な行為とはいえないとしても、共用部分に区分所有者がそれぞれに独自の判断で変更を加えることが許されると、てんでんばらばらに建物の保存に有害な行為がなされるおそれがある。甲は管理組合の承認もなく勝手な判断で行ったのであり、貫通孔の設置などの行為は、建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為である(区分所有法6条)。

(2)特に上記(a)のCの貫通孔について

 管理組合の管理者が、その業務を行うについて有する債権については、その区分所有者の特定承継人に対しても行うことができるから、Cの貫通孔は、例えば元の区分所有者が設置したものであっても、甲が原状回復義務を負う(区分所有法8条、7条1項)。

(3)上記(c)の請求に対して

 管理組合が訴訟のために負担した弁護士費用は、甲の貫通孔設置などの行為及び管理組合の原状回復の要求を拒否するという不法行為によって、管理組合が被った損害である。

 このような管理組合の主張に対し、甲は、次のように反論しました。

(1)に対して

 貫通孔は小さなもの(A、Bは直径6cm、Cは8cm)であるし、ダイヤモンドカッターを使用して慎重を期し、鉄筋を切断又はそれに損傷を加えていない。また、バランス釜は小型で壁柱にはほとんど負担がかからないから壁柱強度を弱めていないし、その強度に影響を及ぼす行為ではない。甲は、一級建築士で専門知識を有するので、特に慎重を期した。したがって、管理組合の請求は権利濫用である。

(2)に対して

 Cの貫通孔は甲が設けたものではないから原状回復の義務はない。

(3)に対して

 弁護士費用まで支払う必要がない。

 結局、事件の争点は、主に(1)に絞られた。

3 判決の内容

 裁判所は、管理組合の主張を全面的に認めて、上記(a)、(b)、(c)の請求を認める判決を下しました。
その内容は、次のとおりです。

  • 区分所有法57条によりその行為の結果の除去を求める行為は、建物の保存に有害な行為に限定されない。区分所有法17条1項は、共用部分の変更は、集会の特別多数決議で決すると定めており、たとえ各区分所有者が建築の専門家であっても、独自の判断により、共用部分に変更を加えることを認めていない。現実には建物に有害ではないとしても、共用部分に変更を加えること自体、有害となるおそれがあるため、建物の管理又は使用に関し共同の利益に反する行為ということができる(区分所有法6条1項)。
    甲の権利濫用の主張も、区分所有建物の保守維持のためには個人の判断による勝手な行動は許されず、集会の決議を経なければならないという原則は守られなければならず、現実の被害の有無は重要ではない。 
  • 元の所有者が設置した湯沸器が爆発するなどの故障があったとしても、甲の行為を正当化するものではない。甲は、風呂の使用には支障があることを知りながらマンションを購入したし、甲がバランス釜を設置する頃には、管理組合は、ガス会社から警報器とストッパーを取付ければ既存の湯沸器を継続使用してもよいとの回答を得、マンションの廊下側に新製品の器具を設置し廊下側に排気孔を設ければよいとの解決策も確認している。これらを各区分所有者に知らせたのに、甲は貫通孔の設置などを強行した。
  • 甲がバランス釜を設置するずっと以前から、リフォームが共用部分の変更にかかわる場合には、理事会の承認や集会の決議を得るためにこれを事前に届出る手続が行われていた。
    裁判所は、配管やバランス釜などの撤去と貫通孔を原状回復する点については、以上のような理由で管理組合の請求を認めたわけです。Cの貫通孔については、甲は区分所有法8条、7条1項により原状回復義務の承継を否定できないから、Cの穴を開けたのが甲か元の区分所有者かは結論に影響を及ぼさないという理由で、原状回復の請求を認めました。
    一方、弁護士費用については、格別に理由付けをしていませんが、管理組合が甲に対して請求した金額の全額の支払を命じました。